報道のあり方


私の尊敬する世界一のホームランバッター、”世界の王さん”が無事手術を終え、大変喜ばしいことだと思います。


畑は違うのでなんともいえませんが、医療者の目で見ると、王貞治選手の手術の報道のおかげで外科の先生方は困っておられるのではないでしょうか?


胃癌の標準術式は果たして腹腔鏡なのでしょうか?産婦人科医のため断言できませんが、少なくとも違うでしょう。本来、本当に初期の癌と考えていれば開腹してリンパ節隔清も含めた根治術ではないでしょうか。今回の術式はよほど腕に自信があり、結果が悪くても文句が出ない関係の当事者間で行われる術式か、根治手術が無意味な場合の術式としか思えません。でも世間はそうは思っていないのではないでしょうか?


テレビを使ってあのように世間に発表されてしまうと、我々のような一般臨床医には結果的に迷惑なこともあるかと思います。


世界の王さんに最高の主治医がついたことは喜ばしいことですが、医師ならあの経過は何か変だと思っても、一般の人はそうは思わない。あれが、先進的な、本当のやり方だと思ってしまう。


そして、一般の方々に特別な医療が報道されればされるほど、現実の医療に過大な期待を持たれてしまう・・・。さらに、報道機関を上手に利用できた機関自身が勝ち組になった錯覚を起こし、さらなる混乱を引き起こす・・・。


私が個人的に思うのは、術式にしても出血量にしても、いや病気そのものにしても発表する必要もなかったし、発表しない方が良かったと思います。王選手のためにも、一般臨床の世界のためにも。すべてを正直に発表するのは無理でしょうから、それならすべて隠せばいいのでは?


有名な方が特別扱いされ、特別な治療をおうけになるのはいっこうに構わないのです。ただ、有名な方が受けた特別な治療を明るみに出すことで、「これが標準だ」と変な誤解や思いこみをマスコミや世間の人が持つのははなはだ迷惑なことです。


少々生意気な意見でしたが、私が言わんとすることは、“いわゆる標準とはなにか”をはっきりさせた上で、このような最高なものがあります。と報道してもらいたいということです。


だって、間違った認識で医療に望むと、結局患者様がしみじみしちゃうじゃないですか!


今日の一言
 「“いわゆる標準とはなにか”をはっきりさせた上で、このような最高なものがあります。と報道してもらいたい」